南越前町「アカタン砂防」と「高倉谷川砂防」の堰堤群は、実は知恵と技術が詰まったスゴイ土木遺産だった!

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行ったことないなんてもったいない!100年以上集落を守り続ける砂防堰堤群

福井県南越前町は、海と山の恵みが豊かな自然の宝庫です。海と山を満喫した後は、ちょっとマニアックな「砂防堰堤(えんてい)」めぐりに出かけてみませんか?

土砂災害を防ぐ治水機能を持つ砂防堰堤には、知られざる魅力がたくさんあります。今回はぜひ訪れていただきたい、明治時代に築造された「アカタン砂防」と「高倉谷川砂防(こうくらたにかわさぼう)」堰堤群をご紹介します。現地に住む案内人に詳しく解説していただき、実際に行ってみましたのでその魅力をレポートします。

INDEX

  • そもそも「砂防堰堤」とは?
  • 登録有形文化財「アカタン砂防堰堤」とは?
  • いざアカタン砂防堰堤へ出発!見学の様子を紹介
  • 明治時代に造られた!石積みの「高倉谷川砂防堤防」をレポート
  • 土木アートを楽しんだ後は天然温泉でゆったり

 

そもそも「砂防堰堤」とは?

砂防堰堤とは、河川や山間部などの土砂災害を防ぐために設置されるダムの一種です。土石流などによって流れ出た土砂をせき止め、下流への被害を軽減し、人と暮らしの安全を守るための重要な役割を果たしています。

砂防堰堤は、その規模や形状もさまざま。河川や山間部の地形や土質など設置される周囲の環境に合わせて工法が異なり、それぞれに特徴を持つ堰堤を見ることができます。

古くから用いられてきた伝統的な工法で築かれた石積堰堤は、まるで自然と調和した土木アートのように見えます。そんな堰堤に魅せられて、その構造美を愛でるマニアもいるとか。

 

登録有形文化財「アカタン砂防堰堤」とは?

南越前町古木、南越前町などを流れる一級河川・日野川の支流、田倉川に注ぐ赤谷川(通称アカタン)は、巨石で積み上げた石積堰堤7基、土砂で積み上げた土堰堤2基の全9基の砂防堰堤が点在しています。

アカタン砂防は、明治28年から30年にかけての大雨による赤谷川上流の大平の土砂災害がきっかけとなり、福井県の第一期砂防工事として、明治33年頃から7年の歳月を費やして築造されました。当時、福井県には砂防専門官がいなかったため、岐阜県から専門の石工技師などが招き集められ、赤谷川にある岩石などの素材を活かして造られました。地元の男の人だけでなく、女の人と子どもも参加し、一日200人から300人が工事に就業したと伝えられています。その後、土砂災害の防止に貢献し続け、地元の人々に親しまれ「アカタン砂防」と呼ばれるようになりました。

歴史的建造物としての価値が認められ、平成16年に国の登録有形文化財に登録されました。明治時代の砂防堰堤群は、今もなお活躍しています。

 

いざアカタン砂防堰堤へ出発!見学の様子を紹介

赤谷川下流にある体験実習施設「リトリートたくら」には、アカタン砂防の魅力発信や環境整備などの活動をしている、地元住民で結成された「田倉川と暮らしの会」による案内パネルや活動記録が展示されており、アカタン砂防について学ぶことができます。詳しい情報が知れるのでぜひ立ち寄ってみましょう。

さらにアカタン砂防の歴史を知りたい方は、事前にリトリートたくらに申し込むと、「田倉川と暮らしの会」の語り部が、アカタン砂防の歴史や役割について説明してくれます。

今回、取材班は語り部の伊藤喜右ェ門さんに案内していただき、9基のうち赤谷川下流の4基の堰堤を見学しました。

今回巡ったのは、この4基。

  • 九号堰堤
  • 八号堰堤
  • 奥の東堰堤
  • 松ヶ端堰堤

リトリートたくらのコテージの近くに、アカタン砂防についての案内看板と国の登録有形文化財に登録されたことを示す石碑が設置されています。ここから赤谷川の上流に向かって、約3.5キロメートルの散策路が整備されています。大平ナベカマ堰堤までは、歩いて1時間以上かかるそう。散策の際は、履き慣れた運動靴や登山靴がおすすめです。

林道を道なりに進むと、動物が侵入するのを防ぐための金網があります。開けたら必ず閉めましょう。

アカタン砂防では、国の天然記念物や絶滅危惧種に指定された希少な生き物も見られます。自然環境と生物の多様性を体感できるのも、この場所の魅力のひとつです。

 

アカタンを知る①「九号堰堤」

案内看板から10分ほど進むと、はじめに迎えてくれるのは、アカタン砂防堰堤群の最下部に位置する土堰堤の九号堰堤です。堰長25メートル、堰高8メートルの土堰堤の左端に、長さ68メートルの空石積導流堤を接続した構造になっています。九号堰堤の上流側に水田が広がっていることから、堰堤群によって災害が防がれ、下流域で水田が開墾できたことが分かります。

アカタン砂防は、赤谷川の洪水被害を防ぐために上流部では谷の土砂崩れを防ぎ、下流部では堆積物の流下を防ぐように、地形を活かして築かれています。自然の岩盤を巧みに利用しており、左右いずれかの山脚部に水通しを寄せた造りによって、洪水の際に山に水を当てて和らげ、水の流れをコントロールしています。岩盤の強度を活かしているため、耐久性にも優れています。

 

アカタンを知る②「八号堰堤」

2基目は、九号堰堤から約13分の土堰堤の八号堰堤です。堤長112メートル、堤高11メートルもある、アカタン砂防の中で最大規模を誇る堰堤です。下流側の土堰堤の下部を急な傾斜の空石積で造られていて、土砂を防ぎつつ水が流れやすくなっています。

 

アカタンを知る③「奥の東堰堤」

3基目は、八号堰堤から約13分の奥の東堰堤です。ここは堤長25メートル、堤高8メートルの石積堰堤です。堤体右端の水通しには、長さ21メートルの導流堤が堤体と直角方向に接続されています。緑の自然に寄り添うように築かれた、曲線美が美しい堰堤です。

 

アカタンを知る④「松ヶ端堰堤」

見学の最後は、奥の東堰堤からすぐ近く、3分ほどの松ヶ端堰堤です。堤長27メートル、堤高7メートルの空石積の構造です。堤体左端の水通し部に、長さ24メートルの導流堤が直角方向に接続した造りになっています。

見た目が亀の甲羅のように見える石の積み方にも工夫が凝らされています。自然の岩石をそのまま水平に積み上げ、一つの石の周りを6・7個の石で囲む野面積みです。石と石の間に土を詰めないことで、水かさが増えてもその隙間を水が通りやすい構造です。

当時の人々が吟味しながら力を合わせて積み上げた、強度と美しさを備えた岩石の集まりは、思わず見惚れてしまうほど。

機械化が進んだ現代では、巨石を運ぶだけでもクレーンや重機を使わなければなりません。100年以上前に人々の手で巨石を運び、大きな石積堰堤を築いたとは驚きです。堰堤の前に立つと、ふるさとを守るために熱意を持って奮闘した当時の人々の姿が眼に浮かぶよう。

「アカタンにいくつかの石垣(堰堤)とドブ(池)があって、子どもの頃、魚を獲ったり水遊びをして楽しんだ」と昔を懐かしむ、語り部の伊藤さん。「子どもの頃は、ここが歴史的価値ある場所だと知りませんでした」と話します。

実は、このアカタン砂防は長年、住民に忘れさられていた場所だったそう。伊藤さんら地域住民が、古老の記憶を頼りに、約7年かけて9基すべてを発見し、現在のような築造時の姿が見えるように再生させたといいます。長い期間に生えた高木を伐採し草を刈り取る作業など、大変な苦労を重ねたそう。平成10年に「田倉川と暮らしの会」を発足し、メンバーは整備作業を続けています。大勢の人々の汗と技術が、赤谷川の洪水から人々を守り、誇りある遺産として今もなお息づいています。

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(アクセス)

【アカタン砂防堰堤】

福井県南条郡南越前町古木

TEL/0778-45-1310(語り部の申込み先「リトリートたくら」)

北陸自動車道今庄IC、南条スマートICから車で約20分

https://www.minamiechizen.com/spot/19465/

(地図)

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明治時代に造られた!石積みの「高倉谷川砂防堤防」をレポート

一級河川・日野川の最上流にある瀬戸の集落内を流れる高倉谷川の周辺には、自然の石を積み上げて築造した全12基の砂防堰堤が点在しています。明治28年の大豪雨により土砂災害が起こり、田畑や家屋が浸水したのがきっかけで、明治33年頃から7年の歳月を費やして造られました。それ以来100年にわたり、砂防堰堤としての効果を発揮しています。

今回は、高倉谷川砂防堰堤について、地元住人の伊藤利憲さんに案内していただき、12基のうち3基の堰堤を巡りました。

高倉谷川砂防堰堤までは瀬戸集落を通りますので、車の場合はゆっくり走行し、住民の安全に配慮しましょう。

今回巡ったのは、この3基。

  • 西高倉堰堤
  • 谷中堰堤
  • 立成1号堰堤

案内看板のところから出発です。車で林道を通り抜け、高倉谷川の上流に向かいます。歩いて巡る方は、案内看板の横に車を1台停めるスペースがあります。伊藤さんによると、ここから立成堰堤までは徒歩で約40分だそう。

 

高倉谷川砂防を知る①「西高倉堰堤」

高倉谷川砂防堰堤群の最下流にある殿入口(とのにゅうぐち)堰堤を通り過ぎ、はじめに訪れたのは、7分ほどのところにある「西高倉堰堤」です。数台の車を止められるスペースがあります。川沿いには、水辺に降りるためのはしごが設置されています。上り下りは気をつけて。

西高倉堰堤は、堤長19メートル、堤高9.6メートルの石造堰堤です。高倉谷川砂防堰堤群は、河川にある自然の石を利用して、石と石をしっかりと噛み合わせることで強度を高める「野面空石積」の技法で造られています。これは、お城の石垣などでも見られる積み方です。アカタン砂防と同じ時期に、同じ技師によって造られましたが、アカタン砂防とは造りが異なる「縄たるみ」という方法で、中央に水通しがあります。この「西高倉堰堤」は歴史的価値が高い砂防堰堤として、平成21年に国の登録有形文化財に指定されました。

堰堤の前に立つと、水の流れが心地よく、清流と緑が織りなす涼スポットとしてハイキングにおすすめです。

 

高倉谷川砂防を知る②「谷中堰堤」

さらに上流に向かって車で3分ほど進むと、看板のすぐ近くにあるのが谷中堰堤です。

石の積み方に工夫を凝らし、一気に水が落下するのではなく、石積みの中央部を通って水が流れ落ちています。

 

高倉谷川砂防を知る③「立成1号堰堤」

谷中堰堤から約5分で立成1号があります。この先に立成2号、3号、4号の砂防堰堤がありますが、今回は、看板のすぐ先にある1号堰堤のみ見学しました。細い道ですので気をつけましょう。

自然の地形のように見えるほど自然に調和している立成1号堰堤です。それぞれの堰堤ごとに変化のある石の積み方が見られるのが見どころです。

伊藤さんによると、この先の上流にある立成2号、3号、4号堰堤の見学は歩きのみ、若杉堰堤までは車で行けるとのことです。最も奥の大草堰堤と小草堰堤は、道に迷う可能性が高いため、現地の案内人がいないと難しいそう。

100年の時を経ても、なお堰堤として力強く立ちはだかり、瀬戸集落を土砂災害から守っている高倉谷川砂防堤防群。皆さんも堰堤の歴史と技術を辿り、その先人たちの偉大さに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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(アクセス)

【高倉谷川砂防堤防】

福井県南条郡南越前町瀬戸45字西高倉

北陸自動車道今庄IC、南条スマートICから車で約30分

https://www.minamiechizen.com/spot/19465/

(地図)

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土木アートを楽しんだ後は天然温泉でゆったり

ハイキング感覚で砂防堰堤めぐりを満喫した後は、日帰り温泉「花はす温泉そまやま」で散策の疲れを癒すのもおすすめです。地下1,000メートルから汲み上げた天然温泉や、花はす産地ならではのはすエキス入りのはすの湯、木々に囲まれた露天風呂でゆったりと過ごしてみてはいかがでしょうか。

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(アクセス)

【花はす温泉そまやま】

福井県南条郡南越前町中小屋60-1

TEL/0778-47-3368

営業時間/8:00~22:00(受付21:00迄)

定休日/毎週火曜日(祝日の場合は営業、 年末年始、はすまつり期間は休まず営業)

入館料/大人(中学生以上)650円、子供(3歳以上)350円

https://www.minamiechizen.com/spot/19561/

(地図)

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今度の休日は、ぜひさまざまなタイプの砂防堰堤を巡り、その歴史と技術を体感してみてくださいね。

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